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子供の頃(昭和30年代)、テレビ番組はアメリカで制作された西部劇が
全盛だった。
その代表的なのが「ローハイド」だ。牛追いのカウボーイの物語で、
今や映画監督となったクリント・イーストウッドが若い頃に出演していた。
主演の牧童頭のフェイバーさんがカッコよかったし、
炊事係りのウィッシュボーン爺さんも味があってよかった。
フランキー・レインの歌う「ローレン ローレン ローレン」の主題歌も
良かった。
フランキー・レインさん‘2007年の2月6日93歳で亡くなったそうだ。



カウボーイのテンガロンハットがカッコよくて憧れたものだ。
それからスティーブ・マックイーンの「拳銃無宿」や「ボナンザ」
「ライフルマン」「ブロンコ・シャイアン」「ガン・スモーク」などなど、
挙げたら切が無いほどである。



そんな西部劇でよくあるのは、馬に跨ったガンマンがある町に辿り着く。
だが、そこは人っ子一人いないゴーストタウン、
馬上のガンマンの行く手を砂塵が虚しく横切る。
まあ今の日本にゴーストタウンなど在ろうはずもないが・・・



ススキノのど真ん中、第2グリーンビルは3階まではスナックなどの
飲食店舗が営業している。
しかし4階から上になると、軒並み空き店舗である。
三橋美智也さんの歌う「古城」じゃないが
♪栄華の夢を 胸に追い ああ 仰げば侘しい天守閣・・・のように、
バブルの頃は賑わい輝いていた店のネオンも、古城の天守閣の如きである。



4階に設けられたゴミステーションに行くと、そんな空き店舗が、
シーンと音を立て不気味に語りかけてくる。
西部劇のガンマは登場しないが、まるでゴーストタウンのようだ。



そんな空き店舗が並ぶ廊下を通ると、栄華に踊らされた魑魅魍魎の
ゴースト達が囚われた牢獄の中から 自らの罪を正当化し省みず、
「お前のせいだ!」と謂わんばかりに長い腕を伸ばして掴み掛かろうと計る。
 突然、空き店舗のドアが開きムンクの画「さけび」のように、
大きな口を空けたゴーストが、ナイフを振り翳し襲い掛かる。
そう、ヒッチコック監督の映画「サイコ」のように。
大金を盗んだ女性マリオンが、逃げ込んだモーテルの一室で
シャワーを浴びている・・・。
とその時モーテルを経営するノーマン・ベイツが突然現れ、
その素肌にナイフを突き刺す。
力任せに幾度となく。  逃げる術もなくマリオンは倒れる。



そんなゴーストタウンのような階で人影がちらりと、
「エッ!今誰かいた・・・ような・・・」現実なのか幻想だろうか?
気のせいなのか。
廊下や階段で見知らぬ人とすれ違う刹那、胸中で思わず身構えてしまうのは
考え過ぎか。
廊下の片隅で女性がうずくまって泣いている。
「ドキッ!」と思わず立ちすくむ。
ホラー映画「リング」の貞子が、テレビ画面から這い出て来る様に
長い髪の毛がうずくまる女性の足元に。
又も「ドキッ!」血溜まりが・・・
「ウッヒョー!手手・・・手首を切っている。」
余りにも非現実的な現実に立ちすくむ。
お釈迦様みたいに、今死のうとしている人を救えるほど説法はない。
「エーどうするべ?」  明日の道新朝刊の社会面に
「若い女性、第2グリーンビル4階の廊下で手首を切って自殺!」なんて載ったら、
「どうしてあの時、助けてやらなかったんだ」と一生寝覚めが悪い。
店に戻りタオルを持って様子を伺いに行くと、どこかのスナックのママだろうか、
彼女の手首にタオルを当て慰めている。
観音菩薩の様なママだ。
「・・・・・」その声は何を言っているのか分からないが、彼女は「ハイ ハイ・・・」と
嗚咽しながら頷いている。



以来そこを通るたびに血溜まりが浮かび上がって避ける間もなく、
いきなりヌルリと顔を染め首を締め付ける。
そんな妄想を振り払うように逃げ出すが、ゴーストが追ってきて肩に両手を掛け
生気を吸い採ろうと背中に張り付く。



深夜に非常階段から「チロチローン!」と鈴の音が響いてくる。
真夜中の鈴の音は怖い。「ドキッ!」と言うよりは、ぞーっとする。
足元からザワザワーッと鳥肌が伝わってくる感じだ。
お遍路姿の亡霊が廊下を滑るように歩き、鈴を鳴らしているのか。
遠くに見えるのに、もう目の前にいる、近いのか遠いのか。
鈴の音に誘われるように辺りを窺う、上階か下階からか?
どこから聞こえてくるのか分からない。「チロチローン!」と聞こえるのは確かだ。
下階からだ。足音を忍ばせ階段を降る。「チロチローン!」と鳴った。と、
若い男の「ウオ-ッ!」の嬌声が響いてきた。
「なんだ?」「チロチローン!」なんと、「チンチロリン」のサイコロ博打の音だ。
若い衆が3、4人でガラスコップにサイコロをころがしていたのだ。
「バカヤロー、ビックリさせるな!」



ゴミステーションには色々な物が捨てられている。
美しかった物、壊れたもの、まだ使える物さえ意味も無くころがっている。



同じビルに入居しているキャバクラで、月初めにミーティングがあるらしく、
その時にキャバクラ嬢達に弁当が出される。
その弁当の食べ方が、おかずだけ食べているもの、一口だけ食べたもの、
箸さえも付けていない、食べ残された弁当が20個、ダンボールに入れられ
無残に捨てられている。
それを見て「ムラムラ」と腹が立ってきた。
「おめーら、食いもんなんだと思っていやがるんだ!」と怒鳴りたくなった。
その捨てられた弁当が、あまりに不憫でならなかった。


キャバクラのポスターには、若くてキレイな女性達が金髪を逆立て
媚びを売り、ニッコリと微笑んでいる。
その表情は蝋人形の様に無機質で、皆同じ顔に見える。



見上げるネオンサインは「おいでおいで!」と輝き、
ビルの入り口で酔いつぶれたオヤジが丸くなり寝込んでいる。
客引きのアンちゃんが通りすがりのオヤジを、キャバクラに誘い込む。
ミニスカートのお姐さんが「ヨロシクオネガイシマス!」と
チラシを強引に手渡す。
千鳥足のオヤジが「イヤ~!まいったなぁ!」と自分の酔いを嘆き、
凍れた地面に足を滑らす。
ニューークラブのゆうこリンは今晩も先生とご同伴、
タメ口利いても先生はご機嫌だ。
夜も更けホームレスのオジさんが、そろそろ寝床を探しにビルの廊下を
徘徊する頃だ。



9階にカラオケ店が出店してから、茶髪の女子高生達が、
昼間からビルに出入りする。
ようになった。「学校はどうしたの?」と問い質したくなる。
インターネットカフェも出店し秋葉系の男性が24時間出入りしている。
昼頃眠そうな目をした男性がエレベーターから降りて来る。
中にはインターネットカフェで生活しているニートもいると聞く。
シャワーも設置されているし、飯もコンビニで調達すればいい。
店側としても別に迷惑掛けずに、金さえ払ってくれれば
文句は無い ってなところだろうか。



店に泊り込み、仕込みを終えて眠りに就く。
上階からカラオケにのった酔客の歌が遠く聞こえてくる。
非常階段をバタバタと降りる、4,5人の若い男女の楽しげな声が反響する。
靴音がコツコツと響き店の前を通り過ぎる。
冷蔵庫は「ブーンン」と静かな音を起こしモーターを回転させる。
製氷機が出来上がった氷を庫内で「ドサ」と落とすから、
眠りかかったのに「ハッ!」として目が覚める。
熟睡できない店内の闇は不安を蝕む。
いつだったか早朝に、そろそろ起きだそうとした時だ、
「キュッキュッ!」とスニーカーの小気味のいい足音が店の前まで来て、
ピタッと止まった。
ハッとして身を硬くして耳をすませた。
すぐに足音はまた「キュッキュッ」と音をたて歩き去って行った。
「誰だろう?」と起き上がって確かめる気力も無いまま、
またウトウトしてしまった。
翌朝店を開けるとドアの隙間にメール便が差し込まれていた。
あの足音はメール便の配達の人だったのだ。
なるほど物事にはちゃんと訳があるのだ。



いつのまにか眠っていたが「ギャーギャーギャー」と、
けたたましい物音で目が覚めた。
「何事!」と携帯の時刻を見ると午前5時だ。
物音のするビルの1階玄関先に出てみるとビックリ、「カラスだ!」
カラスが30羽ほどの黒い塊になって、
出された生ゴミにエサを求めて鳴いていたのだ。
カラスは近づく人達を恐れるでもなく、鳴きつづける。
清掃員はカラスには目もくれず、出されたゴミを収集する。


サラーリーマン風の中年男性3人連れは
酔いを含んだ笑いでカラスに話し掛ける。
白いスカートの今風の若い女性が、疲れた顔で無表情に通り過ぎる。
救急車が、けたたましサイレンを鳴らし36号線を東から西へと駆け抜け、
人々は立ち止まり振り返る。
タクシー乗り場には一台の客待ちタクシーもいない。
朝陽はもう暑さを孕み眩しいほどに輝いている。


にぎやかなゴーストタウン、ススキノの一日は始まったのだろうか、
それとも終わったのだろうか?
店に戻りまた浅い眠りに就いた。
もう、カラスの鳴き声は聞こえてはこなかった。

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